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東京地方裁判所 平成3年(ワ)7458号 判決

本訴原告・反訴被告

株式会社湘南営繕協会

右代表者代表取締役

最上重夫

右訴訟代理人弁護士

才口千晴

北澤純一

本訴被告・反訴原告

有限会社エフアンドエッチ

右代表者代表取締役

内藤文興

右訴訟代理人弁護士

下井善廣

井手大作

主文

本件各訴訟は、平成五年三月一六日訴の取下により終了した。

事実及び理由

(略称) 以下においては、本訴原告・反訴被告株式会社湘南営繕協会を「原告」と、本訴被告・反訴原告有限会社エフアンドエッチを「被告」と略称する。

第一事案の概要

一請求の趣旨及び原因

別添訴状(ただし、別紙当事者目録及び請求債権目録を除く)、準備書面及び反訴状のとおりであるが、その概要は次のとおりである。

1  原告は、建築請負等を業とするものであるが、昭和六三年一一月三日被告から住宅(内藤邸)新築工事を請負代金額五二〇〇万円で請け負ったのを始として、平成元年九月三〇日までの間に、右工事に付随する給排衛生設備工事、木工事追加工事、家具建具工事等の請負工事を請け負い、完成引き渡しとして、被告に対し、右各工事の請負残代金合計二五五〇万円余を請求した。

2  これに対し、被告は、原告が右工事を完成せず途中で放棄したため、残工事を第三者に発注して完成せざるを得なかったとして、原告の請求の棄却を求めるとともに、反訴として、請負契約の債務不履行に基づいて、原告に対し、二三九八万円余の損害賠償を請求した。

二本件に関する訴訟・調停の経過

記録によれば、次の事実が認められる。

1  原告と被告は、平成三年一一月八日、当裁判所民事第七部において、平成二年ワ第七〇〇〇九号約束手形金請求事件につき、「原告と被告は、本件約束手形金債務及びこの原因関係である建物工事請負契約に関する債務については、別紙合意書に基づく調停により精算し、解決することを相互に確認する。」ことなどを内容とする訴訟上の和解をした(〈書証番号略〉)。

別紙合意書(同年一〇月二三日付け)の内容は、次のとおりである。(甲は原告、乙は被告)。

「甲及び乙は、甲を請負人、乙を注文者とする内藤邸新築工事(昭和六三年一一月三日)に関する紛争(以下「本件紛争」という)の解決について、東京地方裁判所裁判官の勧告の趣旨を尊重し、本日以下の通り合意をなし、本合意の誠実な履行に努めることの証として本書面を作成する。

第一条 甲及び乙は、本件紛争について既に提起されている東京地方裁判所平成二年ワ第七〇〇〇九号事件を和解により解決し、同裁判所平成三年ワ第七四五八号及び同平成三年ワ第一二六二九号事件を調停(以下「本調停」という)に付することとする。

第二条 甲及び乙は、本調停の進行等について以下の事項を約する。

1  本調停の主張整理の時点迄に全ての主張を提出し、以後追加の主張は提出しない。

2  本調停の各次回期日迄に、最低一回は本調停外の打合期日を設ける。

3  本調停委員会において、鑑定等第三者の意見を求める旨の指示があったときはこれを受け入れ、その費用は折半とする。

4  調停委員会に対して調停案の提示を求めるように積極的に要請する。

第三条 甲及び乙は、本調停において出された結論を最終のものとして受け入れ、これに対し(如)何なる不服申立も行わない。」

右合意書には、原・被告各代表者が記名押印し、立会人として双方の代理人弁護士が署名押印している。

2 そこで、当裁判所は、右訴訟上の和解と同日、本件を当裁判所の調停に付す旨の決定をし、平成三年メ第四五号請負代金本訴請求調停事件及び同年メ第四六号損害賠償等反訴請求調停事件として、民事第二二部に係属した。そして、同部において調停が続けられてきたが、同部裁判官は、平成五年三月一二日、民事調停法一七条に基づき、それぞれ相手方に対し支払義務の認められる債務を相殺処理した残金五〇九万円余を、被告が原告に支払うことなどを内容とする決定をした。

3  右決定は、原告に同月一五日、被告に同月一六日それぞれ送達されたが、被告は同月一九日右決定に対し異議申立をした。

三本案前の争点

付調停に関する原・被告間の合意と本件異議申立の効力

第二当裁判所の判断

一被告は、平成三年一〇月二三日付けの合意書第三条が、不控訴の合意と同様の効力を有すること自体は争わないようである。

右合意書には、民事調停法一七条に代わる決定がなされた場合、これに対して異議申立をしないとの明文はない。しかし、「本調停において出された結論を最終のものとして受け入れ、これに対し(如)何なる不服申立も行わない。」との合意書第三条の文言は、調停に代わる決定がなされた場合においても、当事者双方はこれに対する異議申立をしないとの合意を含む趣旨のものと解するのが相当である。右のように解釈しないとすると、同条は、調停が成立した場合に、その合意が最終のものとして当事者を拘束し不服申立が許されないという法律上当然のことを定めた条項に過ぎないことになってしまい、調停の進行についても主張の提出時期や調停外の打合期日を設けることなどを協定して、本調停により本件建築工事請負契約に関する紛争の最終的解決を図ろうとした合意書の趣旨に沿わないことになる。また、前記のように、右合意書は双方の弁護士立会いの下に作成され、訴訟上の和解において裁判所も関与のうえ再確認されているものであるから、右のように解釈しても当事者の予測に反することはないと考えられる。

そして、調停に代わる決定に対する異議申立をしないとの合意は、訴訟契約の一種として有効であると解すべきであるから、右合意がある場合、右決定は告知と同時に確定し、右決定に対してなされた異議申立は無効である。

二被告は、本件においてなされた調停に代わる決定は、被告が調停をまとめるために譲歩した事項などを前提としている点で適当でなく、このような決定をしても被告が受け入れないことは当事者が全員了解していたのであるから、裁判所は右決定をなすべきではなかったのであって、右決定は、前記合意書第三条にいう「調停において出された結論」には該当しない旨主張する。

しかし、民事調停法一七条の調停に代わる決定は、「調停が成立する見込みがない場合において相当と認めるときは」、「当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な」ものとして行うものであり、本件決定もそのようなものとしてなされたことが明らかである。したがって、被告主張のような理由によって本件決定が不適法ないし不相当となるものではないことはいうまでもなく、本件決定を合意書第三条にいう「調停において出された結論」から除外すべき理由はない。

三よって、本件調停に代わる決定はその送達と同時に確定し、これにより本件各訴訟は訴の取下があったものとみなされることになるから(民事調停法二〇条二項)、主文のとおり判決する。

(裁判官金築誠志)

別紙訴状〈省略〉

別紙訴変更申立書〈省略〉

別紙請求債権目録〈省略〉

別紙反訴状〈省略〉

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